漁火亭

研究仲間の合宿で三浦海岸駅にやってきた。

 

年末なのも相まって、やや閑散とした雰囲気を漂わせている。

いや、年末でなくてもこの感じなのかもしれない。

 

お昼時に着いたので駅の近くでご飯どころを探す。

前回来たときは、地元の回転寿司に行き、とても美味しかったのを覚えている。

 

前回と同じところに行ってもきっと満足はできる。

でもこんな時だからこそ、別のところに行きたいのも自然なことだ。

三浦海岸。きっと美味しい魚を出す所は他にもあるだろう。

新しい店を探してみることにする。

 

新しいお店と言っても、駅前は閑散としている。

ぱっと見た感じでは無さそうである。

 

前回、ここも良いかもと思われたお店もあるが、カフェやパスタ店。

三浦なのだから魚を楽しみたい。よって、ここはパスだ。

 

少し歩くと小料理屋があった。

いかにも小料理屋という佇まいで、きっと美味しい

ここでも良さそうだが、そうなると情けないもので中の雰囲気が分からないため、二の足を踏んでしまう。

 

いつもチェーン店に逃げてしまうのは、こういう臆病な心理があるからだ。

入って大丈夫か、場違いでないかという気持ちがある。

 

そんな臆病も手伝い、スマホを使い改めて近くのご飯処を探してみる。

そうするとどうだろう、もう少し先に良さそうな定食屋があることが分かった。

折角なので、そちらに行ってみることにする。

 

着いたのが『漁火亭』という定食屋。

入り口は狭く、中の様子は分からない。しかしここで引き返すのも馬鹿らしい。

そのまま店の中に入っていく。

 

店に入ると、入り口の印象よりは大きいスペースが現れた。

30~40くらいの席数だ。

一段上がった畳の上に4人掛けの机が2つとテーブル席が6~7個。

 

入ったはいいが、店員さんの姿が見えない。

ちょうど厨房に入っているようだ。

 

これだ。この雰囲気だ。

客が来たにも関わらず、それをせかせかと気にするわけでもなく、ゆったりとした時間が流れている。

立ち尽くすのも間抜けなので、厨房に近い一番奥のテーブル席に座ることにする。

 

お品書きを見ると、やはりあった。刺身定食。

他にも天ぷら定食などあったが、海沿いに来たのだから、やはり魚だ。

刺身定食を頼むことにする。あと50円足すと、ごはんがホタテごはんになるらしいので、それも足す。

 

注文をとる店員さんは2人。おばさんとおばあさんだ。

もうそう呼んでも失礼にならないくらいの印象の2人だ。

早速、おばあさんの方に刺身定食を頼む。

 

ホタテごはんを頼むと、おばあさんが

「あー、もう売り切れてるかもしれないから、あったらね」と言ってくる。

 

伝え方が実にフランク。

俺に対して丁寧語を使うわけでもなく、息子(孫?)にでも言うかのような話し方。

それでいて語調に悪い印象を受けない。

 

年齢差を考えたら当たり前なのだ。

おそらく80に近いであろうおばあさんが、30に満たない若造に仰々しく接客をする方が変だ。

むしろ年齢を考えれば、これくらいフランクに話された方が自然だ。

そしてそこには人間性を踏まえたコミュニケーションある気がする。

 

チェーン店の仰々しいとも思える接客は、チェーン店では正しい。

しかしそこには人間性は見ていない。あくまで客というシンボルに対して話すための言語なのだ。

チェーン店の接客は相手がサルでも成立するだろう。丁寧になればなるほど、没コミュニケーションだ。

 

そんなことを考えながら、店内を見渡す。

座敷には小さい子供を連れた家族と何かのグループと思わしき4人組。

テーブルにはサラリーマンらしき2人。ビールを飲んでいるので、もう仕事終わりなのだろうか。

お昼時ではあるが、客は多くない。年末だからか。

 

しかしそれがまた店の雰囲気に合っている。

小さなテレビから流れるワイドショーをBGMにそれぞれが取り留めもない話をし、ゆったりと時間が流れている。

 

そうしているうちに刺身定食が来た。

何種類かの刺身の盛り合わせに、みそ汁、サラダ、漬物、サツマイモの煮物、そしてホタテごはん。

どうやらまだあったようで、安心した。

 

950円という値段に対して刺身の量が多い。

魚の種類も4,5匹おり、これは満足度が高い。

一切れずつ楽しみながら、ゆったりとご飯を進める。

 

量も悪くない。

ごはんは見た目にやや少なめであったが、実際に食べてみるとちょうどよい量であった。

美味しく食べた後、会計を済ませ、店を出る。

 

今後、あの店に行くだろうか?

おそらく行く機会は無いだろう。

店の満足度はとても高かったが、次に来たときはまた新規開拓をしなくてはならない。

 

しかしそれでもまた、あの店を訪れる機会があるとするなら、それはきっと何か楽しい時に違いない。