「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」
概要
- ジョン・リー・ハンコック監督
- 2017年7月29日 公開
どんな映画
みんな大好きマクドナルドがどうやってできたのか。
マクドナルドの”創業者”レイ・クロックの物語。
「ウルフ オブ ウォールストリート」のような実業家のサクセスストーリー。偉人伝だね。
レイ・クロックは最初から実業家だけと、『真の』実業家になっていく話。
偉人伝だから学習漫画にできるかなと言えば、たぶんできないタイプの人。
「え、マクドナルドって”マクドナルドさん”が作ったんじゃないの?」と思った人。学習漫画にできない理由はそこだよ。
どんな人が見ると良いか
- マクドナルドが好きな人
- SFや恋愛より、リアルが好きな人
- 実業家志向の人
偉人伝の一種なので、当然ビジネスのリアルな場面が描かれる。
恋愛要素などもほぼ無いので、そういうのが好みの人は期待しない方がいい。
マック好きならマクドナルドがどうできたのか分かるので楽しめるはず。ただし企業の闇の部分も出てくるので、マックを神聖視している人はショックを受ける。そんな人いるかな?
実業家志向の人なら、レイ・クロックの行動は共感できるところが多い。私は共感しきれない部分もあったので、少し甘い人間なのかもしれない。
解説と感想
革命は逆の発想から生まれる
物語は、特別なミキサーが売れないレイ・クロックのもとに、「ミキサーを8個売ってくれ」と突然の注文が入るところから始まる。
この注文をしたのが”マクドナルド”兄弟だ。
これがレイ・クロックとマクドナルドの出会いだ。
マクドナルド兄弟はハンバーガー屋を開いていたが、様子を見ていると周囲の店とはだいぶ雰囲気が違う。
というのも、この店はスピードと効率を追求しているのだ。
メニューはバーガー、ポテト、ジュースの3つだけ。
注文を受けてから商品を出すまで、30秒を目指す。
そのためにキッチンの配置を試行錯誤し、店員の動線を効率化。この配置と動きはテニスコートで何時間も練習して作り上げる。
当時のローサイド店舗は、ウェイトレスが車まで注文を取りに来て、車に届けてくれる。車で食べる専用のプレートにフォークやナイフなども付いてくる。
しかし出てくるのが遅い、注文を間違える、なんなら商品が来ないなんてこともあった。
その中で30秒で出てくるマクドナルドは画期的な店だった。
しかしマクドナルドも最初は受け入れられなかった。
セルフで取りに行く、手づかみで食べる、紙袋に商品が入っているなどが、客にとっては慣れず上手くいかなかった。一時は店じまいをしかけるが、口コミで広がっていき、人気店になる。
ここで面白いのが、マクドナルドはスピードを追求しているのに品質が高いことだ。
スピードを追求するために、効率性を上げる。
効率を追求しようとすると、機械的な作業や道具が求められる。
機械的な作業なので同じ品質を保つことができる。
スピードをあげるため、効率を追い求め、品質管理が保たれる。
一見、高品質で管理しようと思うと丁寧な作業が求められる気がする。
普通は逆に思えるからこそ、革命的なシステムになりえたのだろう。
「マクドナルドは町の教会になる」
レイ・クロックは革新的なシステムを広めようと、フランチャイズ化を提案する。
しかしマクドナルド兄弟は自分たちの以前の失敗もあり、反対をする。
それに対してレイ・クロックはなんとか説得を続ける。
その中で出てくるのが「マクドナルドは町の教会になる」という言葉だ。
教会はどの町にもあり、十字架が掲げられていた。人は新しい街に行っても、十字架を見て「あ、教会だ。お祈りできる」と考えていた。つまり教会にはインフラ的な役割があった。
レイ・クロックはマクドナルドにも同じようなイメージを描いた。
ゴールデンアーチ(当時のマクドナルドの外観)をシンボルとし、どこに行っても「ああ、マクドナルドだ。食べてこ」となると。
これは非常に上手い例えだ。フランチャイズ化に大義を与える言葉選びである。
この言葉にマクドナルド兄弟もフランチャイズ化を認めるようになる。
フランチャイズ化したものの店舗の品質管理ができず、レイ・クロックは苦戦する。
フランチャイズオーナーの質が悪いと考えたレイ・クロックは、生活のために真面目に働く青年を見付け、その夫婦で経営させ、成功をする。
生活がかかった夫婦で経営すると上手くいく知見を得たレイは、生活を良くしたい若い夫婦を集め、契約した夫婦に「我々は今、ファミリーになった」と言う。
家族のために頑張る人の心理を逆手にとった言葉である。
実業家や経営者には、やはり言葉選びのセンスが問われると感じさせられる。
契約の世界
ちょっとアメリカ的で面白いなと思ったことがある。
マクドナルド兄弟がフランチャイズ化で心配していたことは、テンポの品質が管理できないことだった。
結局、レイ・クロックの説得によりフランチャイズ化を決めるが、では品質管理の問題をどうするのかと言えば、品質に関する明確で精密な契約をオーナーに結ばせるという方法をとるのだ。
訓練を積ませるとかライセンス制にするとかより先に契約書が出てくるのが、実にアメリカ的である。
因みにこのマクドナルド兄弟の提案した方法は結局上手くいかなくなるので、レイ・クロックは若い夫婦の心理につけこむという作戦に出るわけだ。
このあたりも実業家の手腕を感じる。
レイ・クロック、『真の』実業家への道
レイ・クロックという人間はとにかく行動が速い。
それも実業家に求められる資質なのかもしれない。
そして頭の回転も速く、口の上手かったり、反対された時に対案をすぐ出したりする。
反面、感情的なところがあり、自分の思い通りにならないことにはすぐ怒り出す。
しかしこれも、オーナーの品質管理が良くない時とか効率的にできるのにしようとしない時とか、実業家として真っ当な怒りなのだ。
冷淡になり切れない部分もあり、従業員をファミリーと言いくるめて頑張らせる一方で、奥さんにかまってあげられなかったり、悲しませたりすることに後ろめたさを感じている。
しかしこれも前半までである。
そしてダークサイドへ
フランチャイズ店を何店舗も出し、成功しているように見えたレイ・クロックだが、契約の関係上本人の儲けがほとんど無く、火の車に陥る。
家を抵当に銀行から融資を受けていたが、何か月も支払いが滞ってしまい、いよいよ銀行に呼び出される。
銀行で担当者と話していると、隣の席に座っていたハリーという男からアドバイスを受けることになる。
今までレイ・クロックは土地と店舗を作り、それをフランチャイズオーナーに買わせていた。オーナーは土地と店舗代を返しながら、儲けの一部をレイに渡す形になっていた。(多分こんな感じだった。)
ところがハリーに「土地をリース契約に変更すればいい」と教えられる。
このあたりからレイ・クロックの振る舞いが変わってくる。
今までのレイ・クロックはハンバーガーチェーン店の経営者であったが、この瞬間から対象が土地に変化したことで、投資家の側面が強くなってくる。
レイが実業家になっていくことで、職人気質のマクドナルド兄弟との対立が深くなっていく。
レイ・クロックは最終的にはマクドナルド兄弟との契約を反故にし、マクドナルド本体を買収することに成功する。
マクドナルド兄弟が契約書にサインするシーンは見ていて、非常に切ない気分になる。自分達が作ったシステムや店がーまさに我が子とも言うべきものがーお金で全て奪われていくのだから。
レイ・クロックのやっていることは納得できるし、実業家として正しいかもしれないが、俺はできないだろうなぁと思った。
最後にレイは「企業家に必要なものは執念だ。」と語る。唯々、それが必要なのだと。
”スピード”という理想を追求し執念を燃やしたはずのマクドナルド兄弟が、企業家の執念に負けてしまうのは、なんとも悲しい結末である。
総評
2時間映画だが、展開が速く、あっさりと見終わった。
マクドナルド兄弟が少し可哀そうなので後味は良いとは言えないが、内容はとても面白かった。
リアル路線が好きな人にはオススメの映画。
因みにこれが面白がれる人は「ウルフ オブ ウォールストリート」も見たほうがいい。あっちの方が派手ですごい。