映画『帰ってきたヒトラー』
『帰ってきたヒトラー』予告編(ショートバージョン・大ヒット)
概要
- ダーヴィト・ヴネント監督
- 2015年10月8日公開
- オリヴァー・マスッチ主演
どんな映画か
ティムール・ヴェルメシュが2012年に発表した風刺小説を映画化したもの。
1945年の自殺直前のアドルフ・ヒトラーが、2014年のドイツにタイムスリップしてしまう。
ヒトラーは近くのキオスクで新聞を読み、現在が2014年であることを理解し、色々な情報を集める。
その後、テレビ関係者のザバツキと知り合い、コメディアンとしてテレビに出演し、社会に様々な波紋を呼ぶ。
しかし演説の上手さなどから、次第に人々に認められていき、大人気になっていく。
どんな人が見るべきか
- 第2次世界大戦を勉強している人
- 独裁者になりたい人
- 風刺が好きな人
まず前提として、「ヒトラーがどんな人か」「ナチスドイツがドイツ国民にどのように思われているか」という知識が無いと、この映画は楽しむのが難しい。風刺小説をもとにした映画なので、風刺されていることが分からないと笑いどころも分からないからね。
あとナチスドイツのことや第2次世界大戦をもとにした発言もちょいちょい出てくる。ヒトラーが自分の制服をクリーニング屋に預けて、ザバツキのところに戻ってきた時に「私の服はすぐに戻ってくる。『電撃クリーニング』だ」と言っているが、「電撃作戦」のことが分からん人には何がジョークか分からないもんね。
解説と感想
「ヒトラー」は身近でアウトラインな存在
ヒトラーがタイムスリップしたのが小説版は2012年。映画だと2014年である。実際には1945年に亡くなっているので、67~69年後ということになる。この年月が実に絶妙な設定である。
ヒトラーが最初にベルリンの町中をうろついている際に、人々は「あ、ヒトラーのコスプレをしている人だ」とすぐに認識するのだ。そしてスマホで一緒に自撮りをしたり、コメントをもらったりする。つまりヒトラーは歴史で知っているが、既にジョークとして捉える存在なのだ。
多分1960年代にタイムスリップしてたら、こうはならないよね。すぐに人々から抹殺されちゃうんじゃないかな。
しかしジョークとして使っていいかが極めて危ないラインの人物である。だからこそ映画内でテレビ出演する際も、「行ける!」と判断する人もいれば、「使うのは危なすぎる」と考える人もいる。そんな微妙なバランスの人物だからこそ、社会的反響も大きくなる。
そもそも「帰ってきたヒトラー」なんて映画ができる時点で、ヒトラーが世界の中で微妙な存在として捉えられている証左に他ならない。ヒトラーをどう捉えるかが、この映画を見るポイントになる。
支持率90%のヒミツ
ヒトラーというと、独裁者の代名詞のような存在だ。しかし映画内で言われている通り、ヒトラーは強引に政権を奪っていったわけではない。国民が選挙によって選んでいったのである。なんと支持率は90%程度。
だがこの映画を見ていると指示される理由は分かってくる。
演説にとにかく力があるのだ。しかも内容というより話し方が上手い。映画を見ているだけでも、何となく引き付けられるものがある。これが実際に長い演説を聞いていたら、そりゃあ支持したくもなる。
この映画内のヒトラーの上手いところは、かなり過激なことを言っているようで、人種差別などアウトな発言は意外にも少ないことだ。なので見ている側もヒトラーに対して何となく好印象をもってしまう。
この映画(小説)のねらいの一つは、その点にある気がする。滅茶苦茶なことをやっているにも関わらず、意外にも聞き触りの良い言葉が並べられると好印象を持ってしまうぞ、という風刺。そして現代にも通じることである。
総評
映画のヒトラーは最終的には親衛隊を作り、人々から支持を集め始める。政党にも乗り込んでいたので、ゆくゆくは政界へ乗り出していくだろう。
ヒトラーが政治家になれば、違う形ではあってもナチスのようなことが起きるのではないか。歴史は繰り返す。ヒトラーがなぜ支持されたのかがよく分かる映画だ。