自分の日常に他人が潜り込んできた話

日常の中で、全くの他人が自分の中に印象づいているというのはとても珍しいことだ。その人が有名な人であれば別だが、一般人であるとそうはいかない。よほど特徴的な何かがあるはずだ。

ここ1年くらいで出会ったファミマのお兄さんがそんな人だ。

 

今の職場と駅の間にはファミマがある。数年前までサンクスであったが、吸収合併の流れでファミマに変わったのだ。

吸収合併と言えば、私の最寄り駅の南口は以前サンクスとファミマがあったのだが、合併の流れでどちらもファミマになってしまった。数年経ってもつぶれないところを見ると、利用者の棲み分けができているのだろうか。

さて職場の近くのファミマだが、客からすれば看板が変わったくらいで中身は殆ど変化が無いので、何も困らずに使っていた。

 

ファミマなってしばらくして、いつものように店の中に入ると「いらっしゃいませー!」と大きな声が聞こえた。どうやら新しい店員さんが入ったらしい。この人が例のお兄さんだ。

お兄さんはいつもマスクをしており、おまけに丸坊主だ。なので年齢はよく分からない。丸坊主だと一見怖そうにも思われがちだが、はきはきしていて接客は非常に丁寧だ。

そして何より声が通り、挨拶をよくする。「いらっしゃいませー」「ありがとうございましたー」「○○はいかがですかー」と元気に言うのだ。いつも元気に挨拶するので、ファミマに入った瞬間に挨拶が聞こえるかどうかで、お兄さんがシフトに入っているかどうかが分かる。

 

お兄さんの存在を知ってから数か月経ち、いつも「あぁお兄さんいるなー」「いつも元気だなー」くらいに思っていたが、ファミマにある変化が訪れた。

ルフレジの導入だ

カウンターの向かいにセルフレジが設置されたのだ。商品のバーコードをかざしてSuicaで払えば、10秒もかからずに会計を終えることができる。私がファミマで買うものと言えば、大体飲み物が1、2本なので有人レジを通すよりセルフレジの方が圧倒的に速い。しかもキャッシュレス割引が適用される。そのためセルフレジ導入以降は、ほとんどの会計をセルフレジで済ませていた。

 

しかしセルフレジが導入された時に一つ気がかりなことがあった。そう、お兄さんの存在である

ルフレジは有人レジの向かいにある。そのためコンビニの動線上、セルフレジに行くには有人レジに向かいつつスルーしながら行く必要がある。

お兄さんは非常に真面目で、客がレジに向かって来るのを見るとバーコードリーダーをさっと構えて待っている。

そして私は毎回それをスルーしているのだ。仕方ないなと思いつつ、どこか心苦しい思いがあった。しかしお兄さんは、どこか気まずさを抱えつつコンビニを立ち去ろうとする私に対し、「セルフレジのご利用ありがとうございましたー!」と元気に見送ってくれる。

このあたりで「このお兄さんは本当に良い人だなあ」と印象をもち始める。

そんな日々が数か月もすると、お兄さんも私のことを認識したのか、私がレジに近づいても確認はしているが、バーコードリーダーは構えなくなった。でも見送ってはくれる。

 

ルフレジは速くて安いのは良いが困ることが一点あった。レジ袋のサイズが一つしかないのだ。しかも小さめのサイズしかない。大きさとしては、パンを2つ入れたら少し飛び出すくらいだ。ただ買うものはペットボトルや紙パックのジュースだけなので、リュックの側面にすぐ入れてしまえば何ら問題が無かった。

 

しかし先日、パンと紙パックのジュースを2本を買ったので、明らかにレジ袋の大きさが足りなくなった。正確にはレジを通している時点で、「あ、これ入らないな」と分かった。まぁリュックに入れればいいので、特に問題は無い。が、その時

「パンは大きくて入りきらないと思うので、こちらの袋をお使い下さい」

と、お兄さんが登場した。ちゃんと見てくれているのだ。この日を境にお兄さんの印象がさらに良いものになった。

 

 

お兄さんがこれほど好印象になったのには、分かりやすい答えがある。

お兄さんの行動は全て、あなたを一人のお客さんとしてしっかり見ていますよというアピールになっているのだ。お兄さんの場合、実際に見ているが。

人は誰かに存在を認められると嬉しくなり、逆にその人の好感をもつようになる。お兄さんは声の大きさやタイミング、接客の態度で、お客さん一人一人をしっかり認識していますというメッセージをこちらに送っていたのだ。なるほど、印象が良くなるはずである。

 

今考えると、自分は子供に対して全体へのメッセージは送っていたが、個人へのメッセージはあまり出していなかったかもしれない。日常の中には自分の行動を顧みる良い機会が転がっているのだなぁ。ま、セルフレジを使うけどね。